ブロガーリレーション・コラム

「マス広告からクチコミ・マーケティングへ」松本泰輔

アメリカで注目されるクチコミ・マーケティング

アメリカでは消費者のライフスタイルの変化とともにメディアの消費も変わってきている。 2006年10月末に発表された全米の新聞の最近6ヶ月での読者減少率は、過去15年で最大となっている。全米トップ25紙のうち前年対比で購読者が伸びているのはNYポスト、NYデイリーニュース、セントルイス・ポスト・ディスパッチの3紙だけという現状だ。

このように若者の活字離れが進み、インターネットでしか新聞を読まない人が増えている。ニューヨークタイムズはオンライン版読者数が本紙購読者数を上回ったと発表している。コンサルティング会社マッキンゼーの報告書によると、テレビ4大ネットワークの視聴者は過去10年で約50%になり、現在10代の若者がウエブ・サーフィンに費やす時間は通常の大人に比べて6倍になるという。

今や世界中に約7000万あるといわれるブログ。企業のマーケターは商品購買に影響を及ぼすブロガーやインフルエンサーと組み、オンライン上で長い時間を過ごす若者を掴まえようと躍起になっている。ところがアメリカではこのようなインターネットを中心としたクチコミ・マーケティングが増えるに従って、身分を偽って製品を売りつけるなどのトラブルが多く報告されるようになった。そこでWord Of Mouth Marketing Association(WOMMA:クチコミマーケティング協会)という団体はクチコミ・マーケティングのガイドラインをつくり、会員である企業にその徹底を図っている。

WOMMAの指導する基本理念は「正直なROI(Relationship、Opinion、Identity)」である。
・誠実な関係(Relationship):誰のためにやっているか伝える
・正直な意見(Opinion):自分が信じていることを述べる
・本当の身分(Identity):決して自分の身元を隠さない
ガイドライン全文は http://www.womma.org に掲載(英文のみ)

つまりWOMMAでは「私は○○会社の宣伝のために、あなたにこれを伝えに来た」と身分を明かし、何のために話しにきたのか明確に説明することを会員に義務づけている。

ブロガーリレーションズの定義

ブロガー・リレーションズ(BR)とは、固定読者を持ち影響力があると思われるブロガーに商品やサービスについて書いてもらうことだが、日本ではその定義において誤解が生じているようだ。BRは企業やPR会社がブロガーに、自社製品について好意的に記事を書くよう強制するものではない。製品について第3者の立場から見た正直な意見を書いてもらうものだ。ひとりのブロガーが「この製品は素晴らしい」と書くだけでは商品購入に至るほどインパクトは強くない。しかし1000人がその製品についてReviewを書き、そのうわさがネット上で広がると商品に興味を覚える人は増える。また1000人が1000人とも「これは素晴らしい」と書くと信じがたいが、1000人中750人が「けっこういい」と書いているのを見ると、購買を考慮している人はポジティブな印象を抱くはずである。このように消費者は自分と同じ目線を持つ消費者からの正直な意見をききたいのだ。だから企業もそれをブロガーに求めるのである。

BRではないが、消費者の意見交換の場を多くの企業がオンライン上に設けている。iPodのアクセサリーを買うためアップル社のサイトに行くと、製品について様々なReviewを見ることができる。同じ商品においても「これは絶対に買い」という意見もあれば「まったく買う必要なし」と最低点をつけるものもいる。製品に対する視点や事情が客によって異なるので、見る人が自分の事情に照らし合わせてそのコメントを読めばいい。異なる意見も参考になるのはもちろん、消費者の率直な意見を削除することなくすべて見せるという会社の姿勢もブランディング構築のひとつなのだ。

WOMMAのガイドラインは企業やPR会社などBRを仕掛ける側への自主規制であるが、ブロガーから見た「書きやすい、協力しやすいBRの条件」というものがある。日頃企業からアプローチされているアメリカの著名なブロガーたちが掲げる「書きたくなるBRの条件」とは-

■ ブロガーと依頼主(企業)との関係
リレーションシップはひとつのメールでは確立されない。BRを依頼される前に、最初はコメント・トラックバックなどで接触してくれるのが望ましい。
■ 自分の専門分野と製品の関連性
いつも自分が書いているブログの内容と製品がマッチしているか、自分が書きたくなる理由があるか、など。

ブログというものは自己発言の場であり、知らない人(企業)のために書きたくないブログは書きたくないとブロガーたちは口を揃えていう。
インフルエンサーという概念自体は昔からあり、新しいものではない。かつては限られたプロフェッショナルな人のみがインフルエンサーとなり得たのが、今は誰もが情報の送り手としてインフルエンサーになれる時代。
マス広告では届かない層にリーチするため、アメリカでBRやインフルエンサー・マーケティングが注目され始めてまだ2年ほど。今後日本でも試行錯誤を重ねて新たなマーケティング手法として注目されるであろう。